デフサッカー日本代表GK松元卓巳選手 ワールドカップ2016開催記念インタビュー(その3)

前回までの記事は(その1)(その2)をご覧下さい。

デフサッカーのレベルアップのためには、優れたプレイやーの獲得が必須。 ただ、「知名度が圧倒的に低いこと」から、ろう者の中でもデフサッカーの存在を知らずに過ごしている「隠れた人材」が多数いると松元さんは語る。その人材発見には、「まずデフサッカーの知名度向上に向けた動きが不可欠」と彼は話すが、その前にも大きな壁が立ちはだかる。

 

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ーデフサッカーの難しさ、楽しさとは?どのような点を味わって欲しいですか?

「目だけで状況判断やコミュニケーションを取らなければならない難しさ」ですね。健常者同士であれば、声で意思疎通を図ることが可能ですが、デフサッカーは手話やアイコンタクトになります。常に顔を上げて、味方の指示に注視しながら、状況判断をして、パス、ドリブル、シュートの最適な選択しなければなりません。 相当な集中力を要します。 無音の中で、息を合わせて、パスを通した時、ゴールが生まれた時の感動は格別です。 サッカーはチームスポーツですが、その「真髄」を味わうことができるのは「デフサッカー」の醍醐味ではないでしょうか?こればっかりは口で言っても伝わらないですね(笑)なので、ぜひ一度味わってほしいです。

ーでは、実際に「デフサッカー体験会」などは随時行っているのでしょうか?

定期的にはできていないですね。費用的な問題もあり、何回も行うのは難しいです。

ー 「費用的な問題」が直面するのですね。

そうですね。費用面に関しては「体験会」に限らず、デフサッカー界全体の課題でもあります。

ー例えば、給与などの待遇面になるのでしょうか? はい。デフサッカーは、Jリーグのように「プロ」という扱いではないので「給与」は出ません。普段、選手は仕事をしながら、空いた時間で練習しています。仕事上の都合で、「練習時間を確保できない」「試合に出られない」ということもあるというのが現状です。

ー松元さんもそのような影響を?

はい。仕事と練習の両立が難しく、転職も経験しています。 そのような経験をすることなく、サッカーに集中できるような環境を作ることができれば嬉しいですね。その実現のために、まずデフサッカーの知名度を高めることが目標です。

ーそのためには、今度のワールドカップは重要になりますね。 はい。絶対に優勝しなければならないと思います。 女子サッカーがあれだけの盛り上がりを見せたように、結果を残せば注目度は高まります。デフサッカーも、あの盛り上がりを作り出したいですね。そして、一過性ではなく、世間に「デフサッカー」という競技を浸透させたいです。

野球やサッカー(Jリーグ)など、しっかりとした協会があり、知名度も高いスポーツであれば、選手はレベルアップのみに集中できる。しかし、マイナースポーツになると、トップレベルに君臨していたとしても、このような困難と共に戦わなくてはならない。 このジレンマを解決するのに有効な手段はあるのだろうか。選手、協会が一丸となり、地道に活動するしか道はないだろう。 地域のサッカークラブと連携し、サッカー教室を開催するなど、少しずつでも実績を積み重ねていくことで、松本さんの言う「デフサッカーの知名度向上」は実現できるのではないか。 まずは、その第一歩目として、ワールドカップでの活躍を期待したい。  

問い合わせ先:o.mia.ardilla@gmail.com

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※デフサッカー日本代表のワールドカップ・予選リーグの日程は以下の通りです。

第1戦:日本時間22日午前1時

日本対アメリカ

第2戦:日本時間24日午前1時

日本対ロシア

第3戦:日本時間25日午後17時

日本対ギリシャ

デフサッカー日本代表GK松元卓巳選手 ワールドカップ2016開催記念インタビュー(その2)

前回までの記事はこちら

 

聴覚障害を物ともせず、サッカー部でキャプテンまで務め上げた中学時代。だが、さらなる成長を目指して進学したサッカー名門校・鹿児島実業高校で壁に突き当たる。悶々とする日々を過ごした松元選手だが、とある出会いが運命を変えることになる。デフサッカー日本代表GK松元卓巳選手 ワールドカップ2016開催記念インタビュー(その2)では、その高校時代の体験から、デフサッカーが持つ課題について触れた。

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ーデフサッカー日本代表に初選出されたのは、高校2年生だった2006年と聞きました。2軍に在籍し、「苛立ちを感じ始めていた時期」と重なります。そもそも試合には出場できていたのでしょうか??

 はい。鹿児島市内大会などには出ていました。でも県大会などには当然1軍が出るので、そういった重要な試合、つまり「注目度の高い」試合には出場できていませんでした。

ーでは、何かきっかけはあったのでしょうか?   当時生活をしていた寮の近くに有るスーパーへ買い物に行った際、偶然ろう者サッカー協会の方と出会ったという、本当に奇跡的なものでした。鹿実サッカー部のジャージに補聴器をつけて歩いていた私を見て、その方が学校側に問い合わせをしたそうです。そして、合宿参加が決まりました。

ー「日本代表選出のきっかけ」がスーパーでの出会いとは。驚きました。

 人材集めに苦労していることを象徴していると思います。 ろう学校に通っている選手の情報は、学校側と協会が連絡を取り合うことで、得ることができると思いますが、それ以外のチームに所属している選手も多くいます。 そのような「隠れた人材」は、関係者から協会への連絡や、私みたいな「奇跡的な出会い」がない限り発見できません。そのような人材の確保は、デフサッカーのレベルアップに不可欠だと思います。

鹿実のようなサッカー名門校にいる松元さんですら、「スーパーでの出会い」がなければ、日本代表になれなかったかも知れないというのは、デフサッカー界の課題と言えそうですね。

 はい、課題だと思います。デフサッカーの認知度向上に繋げるためには、レベルアップし、結果を残すことが不可欠。人材集めに苦労しているようでは、そのスタートラインにも立てません。

ーレベルアップし、認知度向上に繋げたい?

 鶏が先か卵が先かという話になりますが、認知度向上はレベルアップに必要な要素だと考えています。「健常者に混じってプレーしている」が「デフサッカー」という競技があることを知らない「有望なプレイヤー」は絶対にいるはずです。そのような選手に、「デフサッカー」を認知してもらわないといけない。必ずしも強豪クラブにいるとは限らないですし、どうしても協会側が発掘するのは無理がありますからね。

でも、「デフサッカー」「デフフットサル」は耳が聞こえないだけなので、どうしても見た目のインパクトも弱く「障害者スポーツ」の中でも小さい扱いになってしまいがち。 だからこそ、結果を残さないといけません。 ただ、その為には「認知度向上」を実現させ、選手、スポンサーを集めることが必要です。

ーでは、どうしたら「認知度向上」を実現できるのでしょうか?

もちろん、僕ら日本代表選手が結果を残すことは最低条件です。あとは実際に体験してもらうのが良いのかなと思います。

 先程も言いましたが、「デフ」は耳が聞こえないだけなので、健常者と見た目はほとんど変わりません。なので、観戦しただけでは、その難しさ、楽しさを理解することは不可能です。 体験をしてもらって、「デフサッカーっていう競技があるんだ」「耳が聞こえないだけで、こんなに世界が変わるんだ」という感覚を味わってもらいたいです。

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「デフサッカー」の認知度は低く、「日本代表」どころか、そのようなスポーツが存在することすら、ほとんど知られていないという。そのような状況を打破するには、結果を残し、注目度を高めることが必要。だが、結果を残すための要素として欠かせない「有能な人材確保」が難しいというジレンマを抱えているデフサッカー界。

 松元さんは、「健常者に混じってプレーしている『隠れた人材』に、デフサッカーを知ってもらい、レベルアップにつなげたい。そのために、まずはデフサッカーの認知度向上を」と意気込んでいる。そして、その実現には「代表チームが結果を残すこと」と「体験会などの開催」の2つが有効な手段と考えている。

 では、何故すぐに実行に移さないのか。次回、その理由に踏み込んでみたいと思う。

(その3へ続く)

 

 

デフサッカー日本代表GK松元卓巳選手 ワールドカップ2016開催記念インタビュー(その1)

 

 

 

 本日より(2016年6月15日)、サッカーワールドカップがイタリアで開催されることを知っている人はどのくらいいるだろうか。「サッカー観戦が生活の一部」と断言できるほどのサッカーファンの中であっても、知ってる人は少数派であることが予想される。もちろんそれは、今あなたが思い浮かべているであろうネイマールクリスティアーノ・ロナウド本田圭佑らが出場する「FIFAワールドカップ」ではない。来月から行われるのは聴覚障害のあるサッカー選手による「デフサッカーワールドカップ2016」。その開幕を前に、デフサッカーの魅力や難しさとは何かを知るべく、日本代表として出場する松元選手にインタビューを行った。  

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松元卓巳(まつもと たくみ)選手プロフィール

1989年8月7日生まれ。福岡県出身。身長175cm/体重71kg。ポジションはGK。 宇美Jr.SC →宇美中 → 溝辺中(鹿児島県)→ 鹿児島実業高 →九州共立大 → 光陽クラブ(福岡社会人リーグ1部)/福岡ケルベロスFC(デフサッカークラブ) *2クラブに所属 鹿児島実業高2年次より現在までデフサッカー日本代表に選出されている。

ーサッカーを始めた時期と、その理由を教えてください。

小学校2年生の時です。もともと外で遊びまわるのが好きで、雨の中でも屋外で遊んでいました。それを見ていた近所のお兄さんが、母親を通じて「一緒にサッカーをやらないか?」と誘ってくれたのがきっかけですね。

ー耳が聞こえないという障害のある中で、サッカーを始めることに抵抗や不安はなかったのでしょうか?

特になかったですね。健常児と同じく、普通学級に通っていましたし、何の抵抗もなかったです。ただ、中学、高校と、少しずつ歳を重ねるにつれて、会話についていくことに難しさを感じるようになりました。

ー難しさを感じるようになった要因は何が考えらますか?

内容が複雑化する事と会話スピードが上がるという事が理由ですね。 話す語彙も豊富になる事で、似ている言葉の聞き取りが難しかったり、唇から読み取りづらくなったりして、ストレスを感じてしまう状態になりました。

ーそれはサッカーに影響も?

そうですね。高校時代、ベンチやフィールドプレイヤーからの指示が分からず、ゲームの流れを止めてしまったこともあり、その度に悔しい思いをしていました。 中学まではスタメンでキャプテンだったのですが、高校時代は2軍。なかなか思い通りにいかず、苛立ちや焦りを感じ始めていましたね。

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キャプテンまで務めていた中学時代から一転し、2軍暮らしが続き、徐々に焦りや苛立ちを感じ始めた高校時代。

しかし、そこで人生最大の転機をもたらす出会いが訪れる。

(その2へ続く)

 

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