デフサッカー日本代表GK松元卓巳選手 ワールドカップ2016開催記念インタビュー(その2)

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聴覚障害を物ともせず、サッカー部でキャプテンまで務め上げた中学時代。だが、さらなる成長を目指して進学したサッカー名門校・鹿児島実業高校で壁に突き当たる。悶々とする日々を過ごした松元選手だが、とある出会いが運命を変えることになる。デフサッカー日本代表GK松元卓巳選手 ワールドカップ2016開催記念インタビュー(その2)では、その高校時代の体験から、デフサッカーが持つ課題について触れた。

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ーデフサッカー日本代表に初選出されたのは、高校2年生だった2006年と聞きました。2軍に在籍し、「苛立ちを感じ始めていた時期」と重なります。そもそも試合には出場できていたのでしょうか??

 はい。鹿児島市内大会などには出ていました。でも県大会などには当然1軍が出るので、そういった重要な試合、つまり「注目度の高い」試合には出場できていませんでした。

ーでは、何かきっかけはあったのでしょうか?   当時生活をしていた寮の近くに有るスーパーへ買い物に行った際、偶然ろう者サッカー協会の方と出会ったという、本当に奇跡的なものでした。鹿実サッカー部のジャージに補聴器をつけて歩いていた私を見て、その方が学校側に問い合わせをしたそうです。そして、合宿参加が決まりました。

ー「日本代表選出のきっかけ」がスーパーでの出会いとは。驚きました。

 人材集めに苦労していることを象徴していると思います。 ろう学校に通っている選手の情報は、学校側と協会が連絡を取り合うことで、得ることができると思いますが、それ以外のチームに所属している選手も多くいます。 そのような「隠れた人材」は、関係者から協会への連絡や、私みたいな「奇跡的な出会い」がない限り発見できません。そのような人材の確保は、デフサッカーのレベルアップに不可欠だと思います。

鹿実のようなサッカー名門校にいる松元さんですら、「スーパーでの出会い」がなければ、日本代表になれなかったかも知れないというのは、デフサッカー界の課題と言えそうですね。

 はい、課題だと思います。デフサッカーの認知度向上に繋げるためには、レベルアップし、結果を残すことが不可欠。人材集めに苦労しているようでは、そのスタートラインにも立てません。

ーレベルアップし、認知度向上に繋げたい?

 鶏が先か卵が先かという話になりますが、認知度向上はレベルアップに必要な要素だと考えています。「健常者に混じってプレーしている」が「デフサッカー」という競技があることを知らない「有望なプレイヤー」は絶対にいるはずです。そのような選手に、「デフサッカー」を認知してもらわないといけない。必ずしも強豪クラブにいるとは限らないですし、どうしても協会側が発掘するのは無理がありますからね。

でも、「デフサッカー」「デフフットサル」は耳が聞こえないだけなので、どうしても見た目のインパクトも弱く「障害者スポーツ」の中でも小さい扱いになってしまいがち。 だからこそ、結果を残さないといけません。 ただ、その為には「認知度向上」を実現させ、選手、スポンサーを集めることが必要です。

ーでは、どうしたら「認知度向上」を実現できるのでしょうか?

もちろん、僕ら日本代表選手が結果を残すことは最低条件です。あとは実際に体験してもらうのが良いのかなと思います。

 先程も言いましたが、「デフ」は耳が聞こえないだけなので、健常者と見た目はほとんど変わりません。なので、観戦しただけでは、その難しさ、楽しさを理解することは不可能です。 体験をしてもらって、「デフサッカーっていう競技があるんだ」「耳が聞こえないだけで、こんなに世界が変わるんだ」という感覚を味わってもらいたいです。

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「デフサッカー」の認知度は低く、「日本代表」どころか、そのようなスポーツが存在することすら、ほとんど知られていないという。そのような状況を打破するには、結果を残し、注目度を高めることが必要。だが、結果を残すための要素として欠かせない「有能な人材確保」が難しいというジレンマを抱えているデフサッカー界。

 松元さんは、「健常者に混じってプレーしている『隠れた人材』に、デフサッカーを知ってもらい、レベルアップにつなげたい。そのために、まずはデフサッカーの認知度向上を」と意気込んでいる。そして、その実現には「代表チームが結果を残すこと」と「体験会などの開催」の2つが有効な手段と考えている。

 では、何故すぐに実行に移さないのか。次回、その理由に踏み込んでみたいと思う。

(その3へ続く)